その息切れ、年だからと思っていませんか。心臓弁膜症かも。

その息切れ。年だから、運動不足だからと思っていませんか?

「最近、いつもの散歩や通勤で息がきれるな。年だからかな。運動不足だからかな。」と思っていませんか。その症状には心臓弁膜症が隠れていることがあります。心臓弁膜症は数年かけて徐々に悪化することもあり、症状だけでは上記のように加齢や運動不足と区別するのは困難です。心臓弁膜症は適切な時期に加療(手術)をうけることがその後の健康寿命を延ばすために大切です。ここではそんな心臓弁膜症について、循環器専門医として説明させていただきます。心臓弁膜症の理解が深まれば幸いです。

心臓弁膜症とは

心臓は肺や全身に血液を送り出すポンプです。心臓には四つ部屋(左室、左房、右室、右房)があり、それぞれの部屋の出口に逆流防止弁(大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁)があります。これらの弁によって血液を一方向に流し全身にスムーズに血液を送ることが可能となります。しかし、生まれつき弁に異常があったり、加齢や炎症などによって弁が変形したりすることで、弁がうまく開かない(狭窄症)や弁がうまく閉まらない(閉鎖不全症)といった弁の異常が生じます。これら心臓弁膜症は初期(軽症)ではほぼ症状がありません。しかし、悪化してくるとうまく血液を送りだせなくなり、徐々に心臓に負担がかかっていきます。心臓はある程度までは御主人(あなた)に症状が出ないように頑張って働いてくれます。その状態で時間が経過すると心臓の馬力自体が不可逆的(元の心臓の馬力に戻らない状態)に低下することがあります。つまり、せっかく手術を受けていただいても、心臓の馬力が低下した状態から改善なく、術後も息切れ等が残ってしまうことがあります。よって、症状が軽くても重症の弁膜症であれば(進行性であれば)心臓の馬力が低下する前に手術含めた治療が必要となるのです。

心臓弁膜症の一般的な症状

心臓弁膜症は初期の段階では症状がでません。しかし、進行すると心臓のはたらきが低下して脈が乱れ、動悸、息切れ、倦怠感(けんたいかん)などの心不全症状が現れることがあります。初期はほぼ症状ありません。中等度以上になると心臓に負担をかけた状態、つまり日常生活での歩行時や階段上った時などに、息切れや動悸が出やすくなります。さらに進行すると少し動いただけでも症状出るようになります。重症の心不全にまでなると、横になって寝ていると苦しくなり、座っていた方が楽(起坐呼吸)といった症状が出る場合もあります。また、下腿を中心とした全身のむくみが出現してきます。

弁膜症は数年かけて徐々に進行していくので体もある程度は慣れていきます。また、弁膜症悪化の症状は加齢による一般的な症状と似ており、患者さまのなかには「前より息が切れるけど年だからしょうがないかな」で経過見ておられる方もいます。

心臓弁膜症の種類ごとの症状

心臓弁膜症は異常がある弁の場所と異常の状態によって分類され、種類によっても症状が若干異なることがあります。代表的な種類と症状は以下の通りです。

  • 大動脈弁狭窄症(大動脈弁が硬くなり開きづらくなる):息切れや胸痛、失神が知られています。重症化しても無症状の場合もあります。重症の大動脈弁狭窄症はそれのみで突然死のリスクになります。
  • 大動脈弁閉鎖不全症(大動脈弁がうまく閉まらなくなり、心臓から拍出した血液の一部が逆流する):動悸や息切れなどがありますが、相当重症化しない限り失神や突然死は少ないとされています。
  • 僧帽弁閉鎖不全症(僧帽弁がうまく閉まらなくなる):疲れやすさ、動悸や息切れがあります。特異的な症状はなく、一般的な心不全症状となります。
  • 三尖弁(さんせんべん)閉鎖不全症(三尖弁が逆流をきたす):一般的な心不全症状に加えて、特に足のむくみや腹水、肝腫大(肝臓が大きくなる)、疲れやすさなどが前面に出やすくなります。
  • 他にも僧帽弁狭窄症(そうぼうべんきょうさくしょう)もありますが、だいぶ少なくなっています。

心臓弁膜症の原因

心臓弁膜症の原因には、先天的なものと後天的なものがあります。

先天性の場合は生まれつき弁の周りの組織に異常がある、弁に穴が空いている、弁の数が少ない等が原因となります。後天的な原因はリウマチ熱の後遺症や膠原病(こうげんびょう)、血管炎、感染など多岐にわたりますが、近年高齢化とともに加齢によるものが増加傾向にあります。そのため、弁膜症自体の手術件数も増加しているといわれています。

加齢が原因の心臓弁膜症は大動脈弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症が多く、加齢によって弁が硬くなったり、変形して閉じづらくなったりすることが原因となります。心臓弁膜症の患者数は65歳以上で急激に増えることからも高齢者は特に注意が必要と考えられます。

心臓弁膜症を疑って受診を検討したほうがよい場合

大切なのは症状と心雑音です。

息切れ動悸、疲れやすさあれば、心臓弁膜症が隠れているかもしれません。かかりつけの先生に心音の聴診をしてもらってください。

心臓弁膜症は長期間無症状であることも多く、“症状”の項で解説した症状がないからといって必ずしも心臓弁膜症がないとも限りません。呼吸困難やむくみなどの症状がでた場合はかなり重症な場合に現れることがあるので早期の受診が必要なこともあります。

心臓弁膜症の治療(手術)とタイミング

残念ながらお薬では症状を和らげることはできても根本治療はできません。

治療としては弁置換術、弁形成術などがあり、最近はカテーテル治療(TAVI、MitraClip など)や小切開手術、手術支援ロボット(ダヴィンチ手術)などの低侵襲の治療も選択肢にあがります。(※低侵襲治療はすべての弁膜症に適応があるわけではありません。)

最後に

健診で心雑音の指摘あっても特に症状ないから放置しているかたがおられます。また、手術が怖い、もう年だからと思ってそのまま放置しているかたもおられます。最近は胸を大きく開けることなく、傷口小さく低侵襲で行う弁膜症治療も可能となってきています。

ご高齢の方で、できれば手術をうけずに天寿を全うされたいというお気持ちもよくわかります。しかし、現在は高齢でもお元気な方は多くいらっしゃいます。一概に年齢だけで手術をあきらめる必要はありません。健康寿命を延ばすためにも適切な時期に手術をうける必要があります。

息切れや胸部症状の自覚なくても心エコーで重症、もしくは悪化傾向であれば早期の手術をかんがえてみてください。

息切れ、動悸のあるかたは まずは心エコー検査だけでも受けてみませんか。

ご希望があれば東京の心臓治療・手術の専門病院である「ニューハート・ワタナベ国際病院」とも連携しておりますので紹介させていただきます。

(西澤健吾)